何も1日だけの話じゃないだろに
         〜789女子高生シリーズ・枝番

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



1月31日は“愛妻の日”なのだそうで。
日頃からも妻に愛してるよと言い、
綺麗だよと称賛することをサボらない…などなどという、
十カ条を提言している“日本愛妻協会”が随分と前に申請したのだそうで。
永遠の愛という花言葉の
チューリップの花束を贈りましょうとタイアップしていた関係か、
日比谷花壇主催の“妻への愛を叫ぶ”というイベントもあるほどに、
じわりじわりと広まっている模様。

 「聖バレンタインデーもこんな感じで広まったんでしょうかね。」
 「まま、向こうは世界中で認定されてた記念日でしたが。」

そか、じゃあ
“クリスマス”に天皇誕生日が対抗してるようなもんかと
微妙に斜めなことを言い出したのが平八で。
何です、その比較…と、苦笑したのが七郎次だというのも、
どちらがアメリカ育ちかを思えば、何とも珍妙なやりとりではあり。

 「あら、だって。
  欧米の聖バレンタインデーは
  日本のみたいなほど熱狂するよなイベントじゃありませんもの。」

強いて言うなら母の日みたいなもので、
花束を恋人へ律義に届ける人もそりゃあいますが、
特にその日だけ盛り上がらなくともという考え方のお人は、
意識してもなかったりしますしねと。
本人も一応はクリスチャンなせいだろか、
さすがは本場というご意見が出るけれど。

 「で、今年はどんな趣向にしましょかねvv」

すっかりと日本のお祭り風な雰囲気に乗っかってもいたのだから罪がない。
前世からも知己だったなんていう不思議な縁があり、
仲良しな三華様がたとして 知り合い直した3人娘。
女学園時代からこっち、大学生になっても卒業してもなお、
交流も途絶えぬままに顔を合わせておいでなせいで、
こういったイベントにも
“今年はどうしよっかvv”とワクワクと意見交換なぞするところが、
いつまでも瑞々しいままな若さの秘訣なのかもしれない。

 「でもなあ、勘兵衛様、今ややこしい事件に集中しておいでだから。」

夫婦となっても相変わらずに“様”づけの直らぬ白百合さんが、
夫の島田警部補の多忙を嘆き、はふうと悩ましげに溜息をつけば、

 「兵庫も…。」

あの名医のせんせえも、
よくは知らぬが難しい症例へと対処中だとかで、
病院へ泊まり込みの日が続いているとか。
ご自身もホテルJのイベント準備などなどで忙しかったとはいえ、
1月中はとうとう数えるほどしか顔を見ていないと、
紅ばらさんまでもが細い肩を落としてしまう始末で。
そんなお仲間二人を見回したひなげしさんが、
やれやれと肩をすくめたのも一瞬で、

 「ほらほら、
  それだからこそ、腕によりかけてケーキを焼こうってことで。」

 「うん、そうよね。」
 「……。(頷、頷)」

相手が優秀で、
なればこそ仕事の関係筋から引っ張りだこなのは
一緒になる前から承知の上だったはず。
結婚したからって逢える機会が増えるはずもないと、
そこも説かれた上でなお、
それでもお嫁さんがいいと
押しかけ女房さながらに押しの一手で押し切った誰かさんなぞは、

 「勘兵衛様も、
  さすがにこの頃では“実家に帰ってろ”と言わなくなりましたし。」

 「……っvv」
 「やったじゃありませんか。」

大体あのお人はネ、
シチさんへの気遣いに限って方向音痴だから困ります。
久蔵殿とも話してたんですが、
何でそこで
世間一般のボーダーを持って来ますかって言うんですよ。
いいえ、シチさんは黙ってらっしゃい。
事件の関係者への目串の刺し方とか
斬新でとか意外なと言われておいでなのに。
ましてやわたしたちって
普通一般の知り合い方をしてないってのに。
何でそこで“普通”を持って来ますか…と。
仲のいいお友達の苦衷や不遇には
一肌でも二肌でも脱いじゃうよという頼もしさを
存分に発揮しているひなげしさんだが。

 「でも、ヘイさんだって忙しかったんじゃないの?」

バレンタイン特集という雑誌をめくりつつ、
確か、工学系の研究所へ
客員として招聘されてなかったっけと。
島田さんチの麗しい白百合さんが問いかければ、
ホットココアを満たしたカップにお口をつけつつ、

 「ああ、あれはでも…。」

基礎理論の構築段階で、演算の助っ人に呼ばれたようなもので。
ちょっとした穴があったのを指摘して差し上げたら、
主幹筋の先生がたが難しい顔でおでこを寄せ合ってから、
一から練り直すことになったらしくて…と。
けろっとお答え下さったものの。

 “ちょっとした段取りミスみたいに言ってますが。”
 “何億という予算を組まれてた、一大プロジェクトではなかったか。”

それを揺るがすレベルの“穴”だったのだろに、
お使いのお釣り間違い程度に言ってのける恐ろしい女傑は、だが、
待機中の今は、ご亭主の営む“八百萬屋”のお手伝いをしておいでで。

 “考えてみりゃあ、その落差も恐ろしいかも。”

自分たちもそうだが、こちらの小柄なお嬢様もまた、
大学を出るとすぐというノリで片山さんチへ輿入れした身。
なので、彼女もまた、
はやばやと結婚を選ぶなんて早計すぎないかと、
選りにも選ってお相手から、
もっと慎重にせねばと言われたクチでもあって。
とはいえ、

 『あら、でも。』

わたしの場合、
此処への下宿を決めた時点でゴロさんの許婚者としてだったのに、
まあまあ長いこと放っておいて下さったんですもの。

 『だっていうのに、まだ待てと?』
 『う……。』

最初は穏便な向かい合っての説得だったのが、
逆に押し倒してのまたがって迫ったと、ご本人が言ってたくらいだ、

 『…片山、よく耐えたな。』
 『ホント、凄いよね。』

それでも手を出さなかった五郎兵衛さんの鋼の精神力ったらと。
これへばかりは、
常に平八の側の味方だった七郎次や久蔵も
開いた口が塞がらなかったほど呆れたというおまけつき。

 『何でですよぉ。』
 『だってヘイさんたら。』
 『その巨乳でだぞ?』

これ、指を差しちゃあと白百合さんが窘めたものの、
時々忘れかかるが過去には男だった記憶もあるはずのお三方。
なので…とつなぐのも何ではあるが、
ほにゃららカップという大きさだけじゃなく、
それはそれは柔らかそうで、
しかも形のいいお胸をしているひなげしさん。
こちらの二人でも男なら放っとかぬと認める
いわゆる“美乳”美人だというに。
しかもしかも、そんな彼女から
高校生時代と大学生時代という、
最も愛らしくも溌剌としている頃合いに
のべつ幕なしに甘えられて来た御仁だというに。
手を貸すという段取り以上には決して手を出さない、
徹底した紳士振りが物凄く。

 「そうでしたっけねぇ?」

そうまで迫りまくってたかなぁと、
こちらさんは記憶にないらしいのがまた、
どれほどのさりげなさだったかも窺えて。

 『ゴロさんの忍耐力というか、
  ヘイさんから聞いたお惚気話と言えば、
  時代劇ごっこがありますものね。』

 『……。(頷、頷)』

何でも、アメリカにいた頃から
おじいさまの影響で ちょっと古い目の時代劇が大好きだった平八。
掘り出し物の
“何とか犯科帳”だのというディスクBOXを手に入れての
一気見する鑑賞会なぞ楽しんだ日にゃあ、
ついついそのままの“ごっこ遊び”になだれ込むそうで。

 『ダメですよぉ、ゴロさんたら。』
 『そうは言うがな。』

片やの五郎兵衛さんは、アウトドア派だったので、
売り子としての口上は上手なくせに、
こういう極端に芝居がかった物言いは苦手。
なのへと、指導もかねてか

 『年貢の代わりに差し出された娘、
  領主のワシがどうしたって構わぬわ…くらい言わなきゃあ。』

なんてなダメ出しをするのが、
一応は押し倒された格好の平八の側だというから穿ってる。
困り顔のご亭主の分厚いお胸へ、もうもうもうと小さな拳をあててから、

 『言う通りにしないと、こうだっ!』

 『きゃあっ☆』

  ………ちなみに。

こうだ…っと言って
乱暴に自分のパジャマの胸元を左右に割って見せたのが奥方で、
きゃあっと驚き、
お顔を覆いまでしたのがご亭主だったというオチまでついてた、
ご当人にすれば“笑い話”だったようですが、

 「ですから、
  愛妻の日、ですか?
  何でこの日だけと限って
  愛を叫ぶのかが判らないんですよねvv」

 「はいはい、判ったから。」
 「〜〜〜〜〜〜。」

何を言っても訊いても、一番お熱い惚気話にしかならぬ、
相変わらずの最強のラブラブご夫婦でおいでなようでございます。




    〜どさくさ・どっとはらい〜 13.01.30.


  *とまあ、こんな具合で、
   ヘイさんとゴロさんのカップルは
   わざわざ覗く必要もないくらいにラブラブだということで。

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